Meet the Editor:
内山雄介教授

編集者にインタビューする「Meet the Editor」シリーズ。今回は、『Coastal Engineering Journal』(CEJ)編集長の内山雄介教授にお話を伺います。
内山教授は現在、神戸大学 大学院工学研究科 市民工学専攻の教授であり、海岸工学、海洋物理学、海洋モデリングの分野を重点的に研究されています。

これまで、カリフォルニア大学バークレー校の客員研究員やカリフォルニア大学ロサンゼルス校 地球惑星物理学研究所(IGPP)の研究員、その他、日本の研究機関における多数の役職など、数々のアカデミックポストに就任されています。

内山教授は、多数の学会で精力的に活動されています。アジア・オセアニア地球科学学会(Asia Oceania Geosciences Society)の海洋科学部会の部会長であるほか、アメリカ地球物理学連合(American Geophysical Union)、日本地球惑星科学連合、日本海洋学会、土木学会などの学会にも所属されています。

This interview is available in English. Click here to read.

まずは自己紹介をお願いいたします。ご自身、そして現在の研究拠点について簡単にご説明をお願いします。

2015年より現在まで、神戸大学 大学院工学研究科 市民工学専攻の教授を務めています。1993年に東京工業大学 工学部 土木工学科を卒業後、同大学の大学院で1995年に修士(工学)、1998年に博士(工学)を取得しました。1998年、神奈川県横須賀市にある港湾空港技術研究所に入り、それからしばらくして、米国カリフォルニア州にあるカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の地球惑星物理学研究所に採用され、2005年から2011年まで勤務しました。その後2011年に日本に戻り、神戸大学で准教授となりました。

2016年から2017年のサバティカル期間には、UCLAで大気海洋科学科の客員教授を1年間務めました。その頃から、『Ocean Modelling』(Elsevier)と『Frontiers in Marine Science』(Frontiers Media)という他の2つの海洋科学ジャーナルの編集者を務めています。さらに現在は、アジア・オセアニア地球科学学会(AOGS)の海洋科学部会の部会長でもあります。

重点的に研究されている分野について簡単に説明してください。

私のキャリアは土木工学の一分野である海岸工学から始まりましたが、UCLAでの研究職以降は、常に地球流体力学と海洋学に深く関わってきました。このような独特な経歴から、沿岸環境と深海環境の垣根を越えて、海岸工学と海洋科学という工学・理学の両分野の研究に従事しています。これらの境界分野である沿岸域では、さまざまな科学的・工学的問題が生じています。私の業績として特筆すべきものの1つは、領域海洋循環モデル(ROMS)に基づいた海岸・沿岸・海洋に対して統一的に適用可能な新しい数値流体力学循環モデルの開発であり、その中で新たに「波-流れ相互作用理論」をキーイノベーションとして考案しています。

私は現在、このROMSモデルを使用して、日本の太平洋沿岸、南シナ海、東シナ海、米国西海岸などの沿岸域における表層海洋のサブメソスケール混合や関連する物質輸送について調査しています。また、沿岸域から大規模海洋力学・海洋環境に対する波浪影響についても研究しています。

内山雄介教授

この分野に関心を抱いた動機は何でしょうか。また、なぜこの分野が重要なのでしょうか。

海岸工学は、海岸浸食、津波や高潮などの自然災害、台風やハリケーンによる破壊的な高波、さらには陸地・河川からの淡水放出、富栄養化、貧酸素状態による水質や海洋生態系の悪化などから、沿岸域、港湾施設、そして人命と財産を守るための重要な学問です。そのため、海岸工学は本質的に、複数の専門分野をまたがる学問です。従来の流体力学に根ざしていますが、海洋インフラ設計、避難手順、土砂移動、生化学的プロセス、深海との相互作用、気候変動などの考慮も必要になります。

海岸工学は”rocket science” (ロケット科学)ではありませんが、その重要性については軽視できません。必要なニッチを埋める専門知識と、新たな領域を開拓する志の両方が求められます。海岸工学は、気候変動や変わり続ける海況がもたらす課題を解決するものであり、極めて重要な研究・実践分野となっています。

どのような経緯で『Coastal Engineering Journal』の編集長になられましたか。また、編集者としての日頃の役割について簡単にお話しいただけますか。

2011年に日本に戻った後、土木学会の海岸工学委員会に再び関わるようになりました。この委員会は、『Coastal Engineering Journal』(CEJ)の編集委員会を監督しています。私には海岸工学と海洋科学の両方の専門知識があったため、複数の専門分野をまたがる研究成果の査読が可能でした。そのため、2011年にまずCEJの査読者となり、2014年には編集者へ、さらに2017年には副編集長へと昇進しました。

2019年、土木学会海岸工学委員長から、CEJの編集長を拝命しました。私は編集長として、CEJのジャーナルインパクトファクターを向上させ、最高品質の査読プロセスを徹底することで、CEJの名声を高めることを主に目指してきました。そのために主に、若くて才能があり、効率よく仕事ができる精力的な研究者を採用することで、編集委員会を刷新しました。これまでのところ、この取り組みはかなり上手くいっています。

私の日頃の役割には、編集委員やTaylor & Francisのサポートチームと協力して、厳格かつ効率的な査読プロセスによって投稿を管理することが挙げられます。2人の副編集長を含むチームで、投稿されたすべての論文(原稿)について初期評価を実施して査読対象とするかを判断してから、各投稿論文を編集者に割り当てるようにしています。この方法により、編集委員や匿名査読者の負担を大幅に減らしつつ、査読者の打診拒否率を低く抑えて、高品質の査読を維持しています。

Professor Yusuke Uchiyama at AOGS 2023 Annual Meeting, Singapore, August 2023
内山教授(2列目の左から6人目)、アジア・オセアニア地球科学学会(AOGS)の委員会メンバーと共に撮影。シンガポールで開催された2023年AOGS年次会合にて。

沿岸域はさまざまな環境変化に対して脆弱です。教授の専門分野の観点から、持続可能な沿岸開発や災害対策を計画する際に、意思決定者、政策立案者の両者が考慮すべき主な要素について教えてください。

この分野における緊急の課題の1つは、沿岸環境や災害対策に対する気候変動の影響です。地球温暖化と氷床融解により海面が上昇しており、激甚化する波の脅威に対抗するために、沿岸構造物(防波堤など)の高さを上げる必要性に迫られています。CEJで発表された複数の研究で、海面上昇によって、海岸浸食や土地損失が非線形的に悪化する可能性があると述べられています。

その他のCEJの論文でも、海面温度が上昇するほど、特に中緯度から高緯度の海域において、熱帯性低気圧や台風などの低気圧が強化され、沿岸災害の頻度と程度が高まる可能性があると論じられています。海岸工学は、予測される将来の気候下での可能な限り正確な推定値を提示し、持続可能な沿岸開発において意思決定者や政策立案者を支援するという面で、極めて重要な役割を果たします。

福島の原子力発電所事故が海洋生態系にもたらす長期的な影響について深く懸念されています。内山教授の研究に基づき、海洋生物や環境への放射能の影響を最小限に抑えるために、どのような提案や戦略が考えられるでしょうか。

まず、福島第一原子力発電所(福島原発)により放出された放射性核種による海洋環境へのリスクは現在コントロールされており、海洋科学者が信頼できる科学的データを用いてこれを確認しているという点が注目に値します。漏洩した放射性核種のうち、事故現場近くの地表に付着したものの大部分は除去されました。海洋に放出された残りの放射性核種も急速に希釈され、2011年に発生した事故の約1年後にはバックグラウンド濃度にまで戻りました。重要なのは、過去の大気圏内核実験やチェルノブイリ原子力発電所事故により、地球に対して既に相当量の放射性核種が放出されており、それによりバックグラウンド濃度が確立されたことを認識することです。

福島原発は先日、主にトリチウムを含む処理済みの冷却水(処理水)の放出を開始し、一部の国々で懸念の声が上がっています。しかしながら、トリチウムの濃度レベルは規制値を大幅に下回っており、総放出量も世界各国で現在稼働中の原子力発電所から放出されている量を大きく下回っているため、安全であると見なされています。

研究者に『Coastal Engineering Journal』への投稿を推奨する理由は何でしょうか。

CEJは、沿岸、港湾、海洋工学の研究成果や工学的な実践を発表するための査読付きプラットフォームの役割を果たしています。本ジャーナルでは、波と流れ、土砂輸送と地形変動、構造物と設備、環境プロセスと予測手法などのさまざまなトピックについて、原著論文と包括的レビューの投稿を歓迎しています。解析モデル、数値計算、室内実験などを要する基礎研究と、実際のプロジェクトに関する現地調査やケーススタディの両方を対象としています。

CEJは次のような独自の特徴があることから、海岸工学を扱うSCIジャーナルの中でも傑出しています。

  • 2011年の東日本大震災津波などの特定の沿岸災害から「ブルーカーボンとグリーンインフラ」まで、海岸工学に関連する広範で時事的な研究をまとめた特集号を毎年発行しています。

  • 編集委員会より、最優秀論文と引用数最多論文に対して年に一度の賞を授与することで、優秀な投稿を認定しています。

  • Research Article(研究論文)のほかにも、Technical Report(テクニカルレポート)、Review Article(レビュー論文)、Survey Report(調査レポート)などの投稿カテゴリを設けています。Survey Reportカテゴリでは、特定の沿岸災害や現象についての最新のフィールド調査に基づいた迅速かつタイムリーな発表に焦点を当て、後続の研究で利用するためのデータ共有を促進しています。

CEJは、この分野では最長となる65年の歴史を持つジャーナルとして、Journal Citation Reportによるインパクトファクターなどの指標において、海岸工学分野で上位のSCIジャーナルに位置付けられています。研究者の皆さまには、革新的な協働の成果を発表するための定評あるプラットフォームとして、CEJを信頼していただけます。

この分野に乗り出そうとしている若手研究者に対してアドバイスをいただけますか。

海岸工学は複数の専門分野にまたがる、実践的で、社会との関連性の高い分野であり、政策立案者や公共サービス事業者、建設業者、コンサルティングエンジニア、海洋科学者、コンピュータエンジニアに至るまで、さまざまな人との緊密な共同作業が必要になります。この分野で優秀な研究者となるためには、海岸工学だけでなく、海洋物理学、海洋生化学、海洋光学・音響学、大気・気候科学など、さまざまな学問の知識を習得することが不可欠です。このような多様な知識が、この先の多岐にわたるキャリアパスにつながる道を開きます。そのためには、広範な関心を持ち自分の能力を高めることが不可欠です。

若手研究者の皆さんは、他の研究者と積極的にコミュニケーションをとり、また国際的な共同研究やコミュニティに参加してください。ジャーナル論文を発表することはキャリアにおける重要なマイルストーンとなるはずです。この分野に価値ある貢献ができる、革新的な協働の成果を出すよう努めてください。皆さんの研究がCEJで発表されることを心待ちにしております。また、海岸工学者や沿岸科学者として成功を収められるよう願っております。

About the Journal

Coastal Engineering Journal is a peer-reviewed medium for the publication of research achievements and engineering practices in the fields of coastal, harbor and offshore engineering. The CEJ editors welcome original papers and comprehensive reviews on waves and currents, sediment motion and morphodynamics, as well as on structures and facilities. Reports on conceptual developments and predictive methods of environmental processes are also published.

Topics also include hard and soft technologies related to coastal zone development, shore protection, and prevention or mitigation of coastal disasters. The journal is intended to cover not only fundamental studies on analytical models, numerical computation and laboratory experiments, but also results of field measurements and case studies of real projects.